共同研究契約を締結した日本大のFRC型核融合実験装置


◆出力10万キロワットを想定

 国内の研究成果を組み合わせた独自方式で核融合エネルギーの実用化に挑むスタートアップ、LINEA(リニア)イノベーションが事業を加速している。同社が取り組む「FRCミラーハイブリッド方式」は、放射性燃料を使わず反応によって中性子も発生しない。取り扱いや立地の制約が少なく、機器が劣化しづらいといった特徴がある。これまで資金調達や体制整備、大学との共同研究契約などを進めており、早期実用化に向けてまず2030年の発電実証達成を目指す。

 リニア社のルーツは日本大学と筑波大学。両大は核融合の基幹技術の一つ、プラズマ閉じ込め方式で知見を蓄えてきた。日本大は「FRC(磁場反転配位)」、筑波大は「ミラー」と呼ばれる方式だ。

 設立は昨年9月。同年春に設立者である日本大理工学部の浅井朋彦教授と筑波大の坂本瑞樹教授が研究アイデアを交換する中でFRCとミラー方式を組み合わせると、核融合エネルギーの実現性が高まるのではないかとの着想を得た。

 今年1月に7千万円を調達し、本格活動を開始。8月には、宇宙分野のディープテック型(研究成果を社会実装する)スタートアップの成長を牽引した実績を持つ野尻悠太氏がCEOに就任。経営面を野尻氏、研究面を両教授がリードする体制を整えた。また、日本大や筑波大などとも共同研究契約を締結。現在は本社を東京都港区に置き、研究開発は両大施設を拠点とする形で事業を進めている。

 リニア社が手掛けるFRCミラーハイブリッド方式が燃料に使用するのは、軽水素とホウ素の同位体「ホウ素11」。これらは放射性物質でなく、核融合反応時も主生成物に中性子が発生しないため、先進燃料と呼ばれる。

 熱によって核融合反応を起こそうとする場合、先進燃料は10億度程度が必要だった。これは主流燃料である重水素とトリチウム(三重水素)による「D―T反応」の約10倍に当たり、実現性がほぼないとされている。

 そうした中、リニア社はビームを使って反応を起こす「ビーム駆動核融合」の研究を進める。ホウ素を1億度程度に加熱してプラズマ状態にし、この中に軽水素を超高速のビームとして打ち込むことで、双方の核を衝突させて反応を起こす。

 ただ、普通にビームを打ち込んだだけでは通り抜けてしまい反応の可能性は限りなく低い。プラズマの中を何度も行き来し、衝突の可能性が高まるようビームを閉じ込める必要がある。

 ハイブリッド方式では、ビーム閉じ込めに有利なミラーと、プラズマの高密度閉じ込めに優れるFRCで役割を分担。それぞれが得意な対象を閉じ込めることで核融合反応を安定的に起こすことを想定している。

 メリットは、中性子照射に伴う主要機器の劣化が生じない点。点検や交換の手間が少なくなり、稼働率の向上が見込める。照射に強い部材を開発する必要もなくなるほか、機器が放射化しないため廃棄もしやすい。

 生成される荷電粒子を直接電力に変換できるため、蒸気タービンや発電機を必要としない点も強み。ビームの出力を変更すれば、負荷追従運転も可能だ。実用化時の1基当たりの規模は全長30メートル、出力10万キロワット程度を想定している。

 野尻CEOは「27年には『原型炉』の建設に着手し、30年から試験を始めて最初の発電実証を行いたい」と説明。次の段階として、30年代前半には電力網への供給を見据えた「実証炉」の建設を開始し、30年代中盤には試験を始める構想も明かした。

 一方で、ハイブリッド方式について「(FRCとミラーを)組み合わせた前例はない」とも強調。早期実用化に向け、さらに研究開発を加速させていく考えを示す。

電気新聞2024年11月20日