
「福島事故の当事者として、東電にはまだ汗をかいてもらいたいのか」――。柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けて、地元同意が得られていない2024年の秋頃。新潟県の花角英世知事が再稼働判断をしない状況に、当時の経済産業省・資源エネルギー庁幹部が、いらだちを交えてつぶやいた。
柏崎刈羽原子力発電所7号機は原子力規制委員会の審査を20年10月に完了した。審査は終わったが、東京電力ホールディングス(HD)の場合、他の原子力事業者と異なり福島事故の当事者として原子力事業者としての信頼性が再稼働に必須となった。
そういった中、21年にはIDカード不正などの不祥事が発覚。セキュリティーの信頼性が揺らぎ、原子力規制委員会から実質的に再稼働できない「赤判定」を受けた。
◇影響
信頼を失う事象の影響は長く尾を引いた。23年1月の東電HD幹部と新潟県幹部の新年あいさつ。小早川智明社長は信頼回復への誓いを伝えたが、知事は「行動と実績で信頼を得る努力をしてほしい」と要望。24年は能登地震の影響で年始の面会はなかったが、25年の年始あいさつでも知事は、「行動と実績で示してほしい」と同じ言葉を繰り返した。
一方で23年12月の赤判定解除後、発電所内では安全対策工事が進展し、24年6月には7号機で原子炉起動の技術的準備が整った。ただし、地元同意が無く動かせない状況。25年6月には、7号機が特定重大事故等対処施設(特重施設)の設置期限を同年10月に迎えるため、6号機の再稼働を優先する方針に切り替えた。
7号機の稼働に一丸で動いていた状況からの切り替え。所員のモチベーション低下を気にした稲垣武之常務執行役・柏崎刈羽原子力発電所長は、6号機優先の判断について所員を集めて説明した。起動できない現状と7号機稼働に傾注していた所員の思いを受け止め、涙を流しながらのスピーチになったという。終了後は拍手が沸き起こり、関係者は「一層結束が強まった瞬間だった」と振り返る。
◇対話
その稲垣所長のほか、柿澤幸彦常務執行役・新潟本社代表らも地元同意に向けて、社員とともに新潟県で理解活動に動き回った。商業施設などで安全対策を説明するコミュニケーションブースを積極的に開いた。この活動は15年から始めて、4月19日時点で210回開催。来場者は5万1400人に達している。
自治体向けでは原子力災害だけでなく、豪雪や豪雨などの自然災害発生時の支援でも協力する方針を発表。そして25年10月には新潟県向けで1千億円の拠出を表明している。
多くの活動の結果、新潟県による県民意識調査では、発電所の安全対策に関する認知度が高いほど、再稼働に肯定的な意見が出ているとの分析が出た。これを受け昨年12月23日、花角知事が再稼働の同意を赤澤亮正経済産業相に伝えた。
同意を得たが、花角知事は定例会見で「信頼回復はなお課題」と話している。そして再稼働に当たり地域との共生など3点を要望した。これに対し小早川社長は26年1月、花角知事との年始のあいさつで「信頼構築の取り組みに終わりはない」と約束。3点の要望に対しては「行動と実績で示したい」と返答した。積み重ねた安全対策と理解活動に自信を深めた小早川社長が、知事の言葉を借りて新たな誓いを立てた。(湯川努)
◆ ◇ ◆
14年ぶりとなる再稼働を迎えた柏崎刈羽原子力発電所。他の原子力事業者と異なり、再稼働に当たっては事業者としての信頼性、適格性を不安視する声が相次いだ。信頼回復や安全性向上へ、どうステークホルダーと向き合い、行動してきたのか。関係者の声を集め、再稼働への歩みを振り返る。
電気新聞2026年5月8日





