
四国総合研究所は、四国の主要産業である農業を活性化させるため、農産物の生産性向上や高付加価値化を可能とする農業の高度化技術(農業電化)の研究開発に取り組んでいる。農業の振興と今後の気候変動を見据え、日本で市場がわずか1%程度と希少価値が高い国産ライチに着目、試行錯誤のライチ栽培研究をスタートした。保有する独自の農業電化技術を駆使し、十数年にわたる研究の末に国産ライチスマート栽培技術の開発に成功し、ようやく社会実装の光が見えてきた。

農業のさらなる活性化に役立ち、収益につながる目新しい農産物は何か。当社は地球温暖化による栽培温度の上昇から熱帯果樹に着目、2011年より「数種の希少熱帯果樹」に関する調査研究を始めた。ドラゴンフルーツやスターフルーツ、マンゴスチンなど数種を試験栽培し、希少性、栽培性、日本人の嗜好(しこう)性、外観、品質からライチを選び研究を続けた。
ライチは中国南部からタイ北部の亜熱帯地域を原産とするムクロジ科レイシ属の常緑中高木で、中国、台湾、タイなどの東南アジアを中心に栽培されている。日本で見掛けるライチはほとんどこれらの地域から冷凍で輸入されたもので、中華料理のデザートで提供される茶色の果実がライチと思っている日本人も少なくない。一方、生のライチ果実は鮮やかな紅色で、香りや甘みが高く、果汁にあふれ、真珠のような光沢のある果肉が特徴である。
◇先行データ乏しく
日本におけるライチの栽培は、宮崎県、鹿児島県など一部の温暖な地域で先行して行われていた。しかし、先行技術は門外不出で、手元には国産ライチ栽培に関する知見はほとんどなかった。私たちは試行錯誤で研究に着手し、香川大学農学部との共同研究で、ライチの生理生態の解明や品種に関する基礎的知見を蓄積した。
当社は、これまでに植物工場研究や光利用など電気を利用した農業の高度化研究の実績があった。私たちは、先端技術を活用し農産物の高品質・安定生産を可能にする農業を「スマート農業」と捉え、保有する先端技術、すなわち可動ポット式養液栽培技術、緑色LED利用による病虫害抑制技術、ヒートポンプやIoTモニタリング技術などを用いた栽培環境管理技術などを組み合わせ、国産ライチのスマート栽培技術の開発に取り組んだ。
研究所構内の環境制御温室で、15年夏に約200本のライチ苗木を植え、苗木育成の栽培試験を始めた。苗木育成に適した環境条件を解明しつつ苗木栽培を続け、19年には果実の生産が可能な成木に成長した。試験の結果からライチ栽培事業を行う場合は、苗木から育てると少なくとも3年間は果実収穫がないため、事業開始から成木が不可欠であることがわかった。
ライチは苗木育成と果実生産で栽培環境条件が異なる。19年秋季より果実生産に適した環境条件に切り替えて成木の栽培を継続したところ、20年7月に果実を初めて収穫することができた。収穫果実は、1個の質量が40グラムを超える大玉果実が多数あり、糖度も15~19Brix%を示す高品質果実であった。
◇社会実装の段階へ
21年から25年にかけて果実生産試験を反復。生育や開花、収穫量、果実品質などに関する経年的な各種データの収集と解析評価を行った。収穫の表年と裏年といわれる「隔年結果」現象などの特性を解明するとともに、高品質果実を安定生産できる優良品種を選抜した。また、適正な栽培管理方法と栽培システムに関する知見を多数得ることができた。
植物を対象にした研究は、栽培期間が長く結果を得るまでに時間を要するうえ、反復試験での再現性データが必要とされ長期化する。特に、果樹は1年をかけ1回のデータ収集となり一段と時間がかかり、ライチ研究には10年以上の歳月を要した。途中、研究存続の危機もあったが、地道に結果を積み重ねたことで「国産ライチのスマート栽培技術」は、ようやく社会実装に至るステージに到達できた。現在もスマート栽培研究は継続し、ノウハウと優良品種の成木を活用した栽培コンサル事業を展開し社会実装を進めている。
さらなるライチの付加価値化や社会実装については次回で紹介する。
電気新聞2026年4月27日





