「3D―SLISE」は、水系準固体電解質を用いることで、電池の構造だけでなく製造プロセスにも変革をもたらす技術である。従来の電池製造ではドライルームや防爆設備が不可欠であったが、本技術ではこれらに依存しない製造が可能となる。本稿では、材料・製造・リサイクルを一体として再設計する3D―SLISEの特徴と、その意義について解説する。

 筆者らが開発した3D―SLISEは、「Three-Dimensional Slime -Interface Quasi-Solid Electrolyte」の略称であり、水とセラミックスを主成分とする水系準固体電解質である。ホウ酸リチウム、水、セルロース、リチウム塩を組み合わせることで、柔らかいスライム状でありながら、電極との界面に三次元的なイオン伝導経路を形成する点に特徴がある。電解質が単なる媒体ではなく、界面そのものを機能化する役割を担うことが本質である。

 従来の水系電池では、これまでの研究の蓄積により多くの知見が得られてきた一方、水の分解や界面の不安定さが性能上の制約となってきた。3D―SLISEは、水とリチウム塩をホウ酸リチウム粒子間のナノ領域に取り込み、界面構造そのものを制御する設計を採用している。粒子間領域のサイズは構造的に規定されるため、厳密な調湿を必要とせず、水分量の制御により所望の状態を実現できる。さらに、ホウ酸リチウム粒子の骨格がセパレーターとして機能し、その隙間のナノスライム領域を通じてリチウムイオンが効率よく移動する経路が形成される。すなわち、水を構造内に閉じ込めることで機能を発現させる点に特徴がある。また、本系は水溶性材料で構成されるため、水分散による活物質回収が可能であり、ダイレクトリサイクルに適している。

 ◇材料供給も見直し

 筆者は2020年、ホウ酸リチウムと水の相互作用の観察を契機として構造設計の可能性に着想した。材料と水の組み合わせにより状態が変化し、成形性とイオン伝導性が大きく変化することを見出した。この知見を基に、界面構造を設計する発想へと発展し、3D―SLISEの構築に至った。

 本技術の特徴は、材料設計にとどまらず、製造プロセスにまで波及する点にある。


 図に示すように、従来の電池では正極材は新規合成と再精錬を経て供給され、製造ではドライルームや防爆設備を必要とし、電解液注入工程を含む多段階プロセスとなっている。これに対し、3D―SLISEは直接リサイクルを志向し、正極材の供給段階からプロセスの簡素化が可能となる。さらに、電解質を電極に塗布して一体化し、そのまま積層することで電池を構成できるため、電解液注入工程を不要とする。水系プロセスであることから大気中での製造が可能であり、特殊設備に依存しない製造体系へと転換できる。

 このように、3D―SLISEは材料、製造、リサイクルを一体として再設計することで、製造工程の簡素化と安全性の両立を実現する可能性を持つ。これはコストやエネルギー消費の低減に加え、製造の自由度を高める点で重要である。

 さらに、本技術は資源循環の観点でも特徴を持つ。電極を水に分散させることで活物質を回収しやすく、再利用が可能となる。コバルトなど供給リスクの高い資源に対しては、再利用率80%以上を目標に検討を進めている。

 ◇耐用15年級目標に

 本技術は、水系電池に関するこれまでの研究の蓄積の上に成り立っている。液系水系電池で培われた知見を基盤とし、それを準固体化し、界面構造と製造プロセスに拡張することで、新たな設計領域を切り拓いたものである。

 ここで重要なのは、本技術が単なる材料開発にとどまらず、電池システム全体の設計思想を変える点にある。安全性、製造性、資源循環性を同時に満たすことは、今後の蓄電池に求められる要件である。

 現在は長寿命化の課題に取り組んでおり、15年級の耐用年数を目標としている。今後は電池メーカーとの連携により、定置用途を中心とした実証へと展開していく。安全性を強みに、屋内や人の近くでも使用できる蓄電池の実現を目指している。(この項おわり)

電気新聞2026年4月20日