脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギー導入が拡大し、電化のさらなる伸展も見込まれている。このような状況下、蓄電池の重要性が急速に高まってきた。現在主流のリチウムイオン電池は高性能である一方、安全性や資源制約に加え、製造コストが高いといった課題が指摘されている。こうした背景のもと、水系電解質を用いた新しい蓄電池技術の研究が進められている。本稿では、水系電池の意義と開発の背景について紹介する。
再生可能エネルギーの導入拡大や電化の進展に伴い、蓄電池の役割は急速に高まっている。太陽光発電や風力発電は出力変動が大きく、需給バランスを維持するためには、電力を一時的に蓄え、必要な時に放出する仕組みが不可欠である。加えて、データセンター(DC)や医療機関、工場、物流設備では、停電時にも安定して電力を供給できることが求められている。蓄電池はもはや機器の補助ではなく、電力インフラの安定性を左右する基盤技術へと位置付けが変わりつつある。
現在主流のリチウムイオン電池は、高いエネルギー密度を実現した優れた技術であり、モバイル機器や電気自動車の普及を支えてきた。その一方、有機溶媒系の可燃性電解液を用いるため、大型化した際の安全性には慎重な対応が求められる。定置用途では、性能に加えて火災時の影響や設置場所の制約、運用時の安心感が重要となる。安全対策を強化すればコストは上昇し、設置の自由度も低下する。
製造工程にも課題がある。リチウムイオン電池では、厳格な湿度管理や乾燥工程が必要であり、ドライルームなどの特殊設備を前提とする。これらは設備投資だけでなく製造時のエネルギー消費の増大にもつながる。
さらに、電池需要の拡大に伴い、コバルトなどの希少金属の安定確保、使用後電池の回収・再利用といった資源循環の問題も顕在化している。

◇用途ごとに性能が
ここで重要なのは、蓄電池に求められる価値が用途によって異なる点である。図に示すように、蓄電池の適用領域はエネルギー密度と出力密度の関係によって異なり、用途ごとに最適な性能バランスが存在する。
すなわち、蓄電池は一律に高性能であることよりも、用途に適合することが重要となる。電気自動車ではエネルギー密度が最優先されるのに対し、ハイブリッド車では出力特性が重視され、無停電電源装置(UPS)では瞬時の出力と信頼性が求められる。
一方で、定置用途の蓄電池は電気自動車とは異なる位置にあり、安全性、長寿命、コスト、設置性がより重要となる。
特に、データセンターの停電対策や電力系統の安定化では、必要な時に確実に電力を供給できることが求められる。また、医療機関や屋内設備のように人の近くで使用される用途では安全性が最優先だ。工場内で用いられる無人搬送車(AGV)でも、この安全性と取り扱いやすさが重要な要件となる。
こうした課題に対し、水系電解質を用いた蓄電池は有力な選択肢の一つである。水は可燃性ではなく安全性に優れる。有機溶媒を用いないため、製造工程の簡素化やコスト低減が期待できる。さらに、水を用いることは材料の分離や再利用にも適しており、資源循環の観点でも優位性を持つ可能性がある。
◇高密度化など課題
一方で、水系電池には電気化学的安定電位範囲が狭い制約がある。水は一定以上の電圧で分解するため、高電圧化や高エネルギー密度化が難しい。このため、安全であっても性能面での限界が指摘されてきた。
そこで筆者らは、電解質単体ではなく、電極との界面構造を含めた全体設計に着目した。固体系電池の性能は界面に大きく依存するとの考えに基づき、イオン伝導と安定性を両立する構造の検討を進めてきた。これらの検討は、酸化物系固体電解質と水系電池に関する従来の知見を踏まえたものだ。こうした着想は、材料と水の相互作用に関する観察に端を発している。
次回は、その成果である3D―SLISEの特徴と可能性について紹介する。
電気新聞2026年4月13日





