萩原輝彰氏とアン・ムーア氏
アン・ムーア氏(右)と萩原輝彰氏

 AI(人工知能)の拡大などを背景に、企業によるデータ活用と、それを支えるデータ基盤の重要性が高まっている。産業用ソフトウエア大手のAVEVAが提供するデータ管理インフラ「AVEVA PI System(以下PI)」は、IoT端末などエッジデバイスからの情報収集に対応する柔軟性や、クラウド対応により企業の壁を越えたコミュニケーションを可能とする拡張性が評価され、国内外で導入を伸ばす。このほど来日した電力・公益事業プリンシパルのアン・ムーア氏と、インダストリアルプラットフォーム&アプリケーション事業本部長の萩原輝彰氏に、データの利活用が企業にもたらす好循環や国内外の導入事例を聞いた。

アン・ムーア氏
 

データは現代の「石油」、良質な基盤が価値引き出す

電力・公益事業プリンシパル アン・ムーア氏





 ――企業のデータ活用と、それを支えるデータ基盤の重要性が注目を集めています。

 萩原氏 これは突然始まった話ではなく、かねて注目されていた課題の重要性が増してきたのだと認識しています。電力業界においてデータ基盤に対する関心が高まった一つのきっかけは、2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故でした。全国的な供給力不足を補うため、経年火力を総動員する局面で、データ基盤に基づき、設備の状態やトラブルの予兆を捉えようという機運が高まりました。

 予兆を捉え、事前に手を打つ発想は、その後のスマート保全にもつながっています。さらに今日は機械学習やAIを駆使した分析が当たり前となり、膨大なデータをどう料理し、価値を生み出すかが問われています。そうした中で、円滑なデータ利活用に欠かせない良質なデータ基盤を求める声が年々高まっています。

萩原輝彰氏
 

「PIのない生活には戻れない」との評価、印象深く

インダストリアルプラットフォーム&アプリケーション事業本部長
萩原輝彰氏




 ――従来型のデータ利用の課題をどのように捉えていますか。

 萩原氏 これまでも企業は事業データを収集してきましたが、部門や設備ごとにデータが「サイロ化」され、外部からのアクセスが困難でした。ある情報を手に入れるために、特定の端末を使わなければならないといった状況も日常茶飯事でした。データ基盤を持つことで、様々な端末から、あるいは社外からでも必要なデータにアクセスすることが可能になります。

 こうした変化が組織に与える影響は極めて大きいと考えています。これまでアクセスしづらかったデータを使えるようになると、様々な担当者から分析のために追加のデータがほしい、データ品質を高めたいといったニーズが寄せられるようになります。その結果、新たなデータを集め、それを利用することで価値を生み出す好循環が生まれるのです。これが一人一人のユーザーから生まれる継続的な改善サイクルとして企業内で定着します。

 ムーア氏 データは、現代における「石油」であり「貨幣」です。それだけ貴重なものですが、一方でデータはそれ自体が価値を生むのではなく、それをどう使うかが重要なのです。「サイロ化」されたデータ管理から脱却し、集めるデータの品質を高め、リアルタイムで必要なデータを適切に使わなければ、企業が直面する複雑な課題に対応するのは難しいでしょう。また社外問わず関係者との円滑なコラボレーションを進める上でも、良質なデータ基盤は欠かせません。

 ――AVEVAが提供するPIの特徴を教えてください。

 ムーア氏 PIは、提供開始から40年余りの歴史を持ち、多くのユーザーに使われています。主な機能はデータの収集、格納、データの価値を引き出してインテリジェンスを抽出する解釈・共有化の3つ。このうちデータ収集を担うインターフェースは、世の中で流通するほぼ全ての通信プロトコルに対応しています。

 萩原氏 インターフェースの設定を変えることで、データの品質を高めたり、収集範囲を広げることに簡単に対応できるのも、PIの特徴です。幅広くデータを集めるニーズに応えるため、エッジデータストア(EDS)という機能を加え、これまで対応していなかったセンサー類や、IoTデバイスからのデータ収集もできるようになりました。

 クラウド対応も拡張しています。私たちが提供する「CONNECT」は、クラウドベースのデータ分析を容易にするだけでなく、会社の垣根を越えたデータ分析や、パートナーとのコミュニティー形成を促す仕組みです。従来のPIに、EDSとクラウド対応を組み合わせて「PIデータインフラストラクチャー(PIDI)」として2年前から提供しています。

 ――時代の変化に対応しつつ進化を遂げてきたということですね。

 萩原氏 その通りです。ここではあえてインフラという言葉を使いました。私たちは日常生活を送る上で電気や水道を何の苦労も感じずに使っていますが、それは社会インフラが整っているからです。それと同じように、PIDIは誰もが苦労なくデータにアクセスし、価値を生み出す基盤をお客さまの環境に構築する役割を担います。

 ムーア氏 これまでオンプレミスで処理していたデータが、エッジからエンド・ツー・エンドでクラウドにつながることで、AIや機械学習を導入しやすくなります。クラウドを介してかかわる関係者も格段に増える。そこで生まれる共創のメリットは極めて大きいと考えています。

 ――PIのユースケースを教えてください。

 萩原氏 まず私から、国内の多くの電力会社の火力発電部門にPIを採用頂いた事例を紹介したいと思います。どの会社も共通して言えることは、データ管理を高度化するため、複数の発電所にシステムを導入頂き、企業内を縦横横断で複数の部門がデータ共有できる環境も構築しました。その結果、ある発電所で成果を挙げたデータ利活用のベストプラクティスを横展開する取り組みが急速に進みました。事例共有のワークショップに参加させて頂く機会があったのですが、ある会社ではお客さまのプレゼンテーションの中で「PIのない生活には戻れない」と表現頂いたことがとてもうれしく、印象に残っています。

 ムーア氏 米国では近年、太陽光発電や蓄電池、EV(電気自動車)など分散型リソースが急拡大しています。消費者側も電力を生み出すことができるようになり、エネルギーの流れが複雑さを増す中で、エネルギー供給にかかわる様々なプレーヤー間でデータを共有・分析する仕組みづくりが課題になっています。

 カリフォルニア州に本社を置くサービスプロバイダーのZGlobal社は、こうした課題へのソリューションとして、PIを活用し、発電・小売事業者それぞれのデータを収集し、業務を支援するサービスを提供しています。複数の関係者を束ねるデータ共有に「CONNECT」が貢献しました。消費者側の膨大な設備データも取り込み、地域のエネルギーリソースとして有効活用する仕組みも構築しています。

 ――導入事例が国内外で広がっていますね。

 萩原氏 国内の電力業界では発電分野での導入が先行しましたが、そこで得た知見も生かし、今後は系統設備のデジタル化、再エネ対応など、送配電分野の課題解決のお手伝いも積極的にさせて頂きたいと考えています。メンテナンスコストの上昇を抑え、中長期の設備投資・更新を最適化しつつ供給安定性を維持するといった、困難な課題を解決するためにも、当社のデータ基盤が貢献できると考えています。

 ムーア氏 PIのユースケースはグローバルで数千件規模まで広がっています。萩原からも紹介がありましたが、一度使ってもらえれば、必ず面白さを発見頂けるでしょう。9月4日に東京で開催する「AVEVA DAY JAPAN2025」でも、そうしたユーザーの声をたくさんお届けしたいですね。

電気新聞2025年7月31日