電気工事会社が賃上げ対応に苦慮している。資機材費や外注費など各種費用が膨らみ、賃上げ原資を圧迫する。人手不足の解消には他業種を上回る賃金上昇が欠かせないと各社は危機感を募らせる。現状の打破に向けて、労務費や物価の変動見込みを託送料金の原価に算入する方向で経済産業省がレベニューキャップ制度の検討を進めていることに期待の声が相次ぐ。

 「日本の電気を守るのが使命の架線電工の年収が500万円台なのは、仕事の難易度から見ても少なすぎる」。送電線建設協力会の福島鉄雄会長(エフテック社長)はこう嘆く。送電線建設技術研究会関西支部によると、電工の平均年収は2024年、平均年齢41歳で589万円だった。

 福島会長は国を守る自衛隊を引き合いに、40代のベテラン電工なら自衛官幹部と同等の年収900万円は必要と力説する。だが、「協力班として頂く請負費の約80%が現場人件費であり、請負費が上がらずに給与を上げると事業継続できない」と説明する。

 送研の大石祐司理事長は「最近の肌感覚として採用における賃金の影響は大きく、世間相場を見ながら上げざるを得ない危機感を持っている」と話す。社会の賃上げ水準に追随できなければ人材を採用できないとの懸念は業界で広がる。従業員約200人のある送電工事会社は2年連続で基本給を3%以上増やした。

 一方、連合が3日発表した集計によると、25年春闘の賃上げ率は平均5.25%、中小企業で4.65%と、さらに高水準だった。

 ◇認知度補う

 青木電気工事(千葉県柏市)の山口浩代表取締役は「送電業界は社会的認知度が低い業種のため、他業界より高い賃金上昇が必要」と説く。同社は従来以上の賃上げを実施し、人材確保に努める。他方で「固定費の上昇や退職金への影響なども勘案せねばならず、賃上げ幅に苦慮している」とこぼす。鉄筋や生コンクリートなどの単価上昇に伴う外注費の増加も賃上げ原資の利益を奪う。

 連系線などの大型案件により、送電工事量は数年先まで高水準で推移していく見込みだ。山口代表取締役は、人材不足が拡大しつつあるとしながら「GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)、データセンターなどによる電力需要増対応はおろか、安定供給という国家の生命線に大きな影響を及ぼしかねない」と懸念を示す。激甚化する災害への対応からも「送電ラインマンへの投資が必要と強く考えている」と訴える。

 一般送配電事業者は委託費を増やして元請けや協力会社の賃上げを一定程度支えるが、現行のレベニューキャップ制度では限界がある。託送料金の原価に消費者物価と雇用者所得の変動見込み(エスカレーション)を認めていないためだ。託送料金単価は規制期間の5年間、固定される。ある経産省幹部は「(レベニューキャップ)制度が下請けへの圧力になりかねない」と危機感を示し、制度改定が急務とする。公共工事設計労務単価が13年連続で上昇しているのに比べ硬直的だ。

公共工事設計労務単価

 電力会社の委託費は、元請けの協力会社まで波及する。ヒメノ(名古屋市、椋木和之社長)の森田耕吉執行役員・送電部長は「協力会社から労務費を上げてほしいという声が聞こえてくる」と話す。レベニューキャップ制度の見直しにより「労務費と工事単価の上昇につながるのならありがたい」と期待を込める。「賃金を上げないと、『新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)』に転換できない」と説く。

 ◇外注費高騰

 社内で管理要員の取り合いが起こるほど繁忙感の高まっているETSホールディングス(東京都豊島区、坂本泰男社長)では、協力会社の確保にも苦慮しており、外注費が高騰しているという。受注額に追いつかず、工事の利益率の低下を招いている。雷勝彦執行役員・東北支社長は「社員の賃金向上や外注費の増加は選択肢でなく必須の対応。経営収支だけでなく、今後の事業継続にも影響を及ぼしかねない」と話す。

 一般送配電事業者が委託費を増やすまでの間、下請けや協力会社で費用の持ち出しが発生することが経営の重荷となっているという声も出ている。レベニューキャップ制度の見直しでは、労務費や物価の上昇に機動的に対応した制度設計が求められそうだ。

電気新聞2025年7月15日