[ウクライナショック]識者の見方/古川 実氏

日本のS+3E、世界へ広げよ


古川 実氏

 

古川 実氏
関西経済連合会 地球環境・エネルギー委員長(日立造船顧問)


 

 エネルギー資源を輸入に依存する日本は、調達交渉力などに根本的な脆弱性がある。緊迫するウクライナ情勢を踏まえ、関経連は(1)エネ価格高騰に対する緩和措置(2)原子力発電所の速やかな再稼働(3)安定的な燃料確保――を柱とする緊急提言を3月にまとめた。

 かねて脱炭素の観点から関経連は原子力再稼働を訴えてきたが、より強い切迫感を持つ。ウクライナ危機はエネ資源を特定の国に依存できないことを示した。ここ約10年で産業用電力コストは約25%上昇したが、今後も上昇が続けば経済は立ち行かなくなる。

 国会議員と対話すると異口同音に再稼働賛成というが、一般の理解が壁となる。政治が決断し安全性や必要性を説明すべきだ。立地地域や事業者が事業の継続性を信じられるよう、60年超運転へ道を開くなど、投資環境の整備も求められる。

 脱炭素はエネルギーセキュリティー改善と重なる部分もあり、世界的な流れは変わらないだろう。国際競争はルール策定が重要。そこでリードする欧州勢は電気自動車(EV)への傾注が象徴的だが、特に環境を重視してきた。ところが現在は欧州でもエネルギーセキュリティーの重要性が再認識される。これを契機と捉え、S+3Eのバランスを取る日本の考え方を、ルールに盛り込むよう努めるべきだ。

 50年カーボンニュートラルを見据え再エネを最大限導入しても、火力の役割は残る。日本企業はCCUS(二酸化炭素回収・貯留・利用)や水素燃焼など「化石燃料の賢い利用」に強みがある。新興国に輸出すれば世界への貢献につながる。

 原子力は福島第一事故を経験し、フェールセーフの知見を深めた。技術発展・維持にはリプレースが欠かせない。小型モジュール炉(SMR)などの可能性も追求すべき。高圧に耐える圧力容器が水素貯蔵に応用されるなど、原子力技術は幅広い波及効果も持つ。日本が生き残るにはこうした「高付加価値のものづくり」をしっかりやる必要がある。
(聞き手・海老 宏亮)

 <ふるかわ・みのる> 1966年阪大経済学部卒、日立造船入社。2005年に社長就任。10年に社長兼会長に就き財界活動も注力。15年から関経連地球環境・エネ委員長を務める。産業の視点に加え、立地地域との対話も重視。

(談)


電気新聞2022年4月5日