生成AI(人工知能)の普及は、データセンターを急速に電力多消費型産業へと変化させている。前回はその象徴的な概念として「Power First」、すなわち電源確保を最優先とする投資構造を紹介した。本稿では、その背景にある需要拡張のメカニズムを整理する。データセンター技術は着実に効率化しているが、それが必ずしも電力需要の減少につながるわけではない。むしろ能力拡張が新たな用途を生み、総需要を押し上げる。本稿では、この構造がどのように「電気をかき集める行動様式」を生み出しているのかを考察する。


 半導体の微細化、三次元実装、高効率電源、液体冷却――データセンターを支える基盤技術は着実に進歩している。GPU(画像処理装置)の演算効率は世代ごとに向上し、電源や冷却の効率化も進む。データセンターのエネルギー効率を示す指標であるPUE(Power Usage Effectiveness)も、かつては2.0近い値が一般的だったが、現在では大規模施設で1.2前後まで改善している。単位計算あたりの電力消費は確実に低減しているといえる。

 しかし、注目すべきは、情報処理能力そのものが拡張され続けているという事実である。能力の限界が広がれば、社会はその余白を埋めるように新たな用途を生み出す。

 大規模言語モデルの学習に必要な演算量は、モデル規模の拡大とともに急速に増大してきた。半導体性能が向上すれば、より大規模なモデルの構築が可能となり、医療診断、創薬、金融リスク分析、都市交通制御など応用領域が拡大する。結果として社会全体で必要とされる総演算量はむしろ増大する。効率化によって生まれた余力は、需要減少ではなく新市場の創出へと振り向けられるであろう。

 ◇高速化で処理量増

 通信技術の進展も同様の帰結をもたらす可能性が高い。光通信や光演算の研究が進めば通信遅延はさらに小さくなる。遅延が極小化されれば、AIによるリアルタイム制御の適用範囲は大きく広がる。自動運転、スマートファクトリー、遠隔医療、ロボティクスなどでは、瞬時の判断能力そのものが価値となる。こうした用途の拡大は膨大な推論処理を伴う。

 さらに近年は、計算需要が集中と分散を同時に拡大させる傾向も見られる。大規模モデルの学習は巨大データセンターに集中する一方、サービス提供のための推論処理は需要地近傍へ分散する。分散推論が広がれば、中央拠点だけでなく各地の拠点でも新たな電力需要が発生する。高速化は集中化と分散化を同時に促進し、結果としてインフラ全体の電力消費を押し上げる。

 海外では、こうした需要拡張に対応する動きが具体化している。米国ではデータセンター需要の急増を背景に電源確保の議論が活発化している。テキサス州では天然ガス火力発電所の新設や既存設備の再稼働が検討され、AI関連需要が電源投資を促す要因の一つとされている。カリフォルニア州では大規模需要への対応として非常用ディーゼル発電設備の稼働時間の扱いが議論となった。再生可能エネルギーの導入は進むが、変動性を抱える電源構成の中で安定需要を支えるには即応性の高い電源が必要とされるためだ。

 ◇系統コスト増にも

 さらに問題を複雑化させるのが、将来拡張を見越した接続枠の確保、いわゆる「ファントム需要」だ。データセンター事業者が将来増設を想定し、実際の初期需要を上回る容量を申請するケースが指摘されている。こうした申請が増えれば、系統計画は潜在需要を前提に進めざるを得ず、系統コストを押し上げることとなる。

 再エネの大量導入、蓄電池コストの低減、長期安定電源の確保――いずれも時間と投資を要する課題である。その間も、情報処理能力への社会的期待は高まり続ける。効率化が進んでも能力拡張が需要を増幅する構造は変わらない。重要なのは電力量の多寡だけではない。急増する計算需要を電力システムがどのように受け止めるのか、すなわち接続能力や運用柔軟性を含む系統の「受容能力」である。AI時代の電力問題は、単なる供給量確保から電力システム全体の質的設計へと焦点を移しつつある。

電気新聞2026年3月16日