この連載では前回までに「蓄電池事業に関するガイドライン」がシステムの設計、選定、設置、保守・運用から事業終了までライフサイクル全体にわたる要求事項を整理していること、また安全性の確保について技術的な視点からリスクを可視化し低減する考え方が示されていることを見てきた。最終回となる今回は、蓄電池事業の安全性と長期安定運用を左右する「運用計画」に焦点を当てる。
設備運用に代表されるアセットマネジメントの本質は、「コスト」「リスク」「パフォーマンス」の三要素を見極め、継続的に最適化することにある。
過度にコストをかければ事業性は損なわれ、短期収益だけを重視して必要な費用を削れば安全性や長期運用に支障を来す。従って、運用計画とは単なる保守点検の予定表ではない。アセットに内在する質的・量的リスクを把握し、その時間的変化を見据えながら、収益最大化に向けてコストを管理し、必要な対応を講じるための事業継続の設計図である。そのため、設備システムがどのような目的・用途で用いられ、どのように使用され、どの程度の期間運用されるのかを十分に検討した上で、運用計画を立てる必要がある。

◇期待を背景に活況
蓄電池システムは、高速応答性や高精度制御性を備え、太陽光発電や風力発電の短時間の出力変動を緩和し、電力系統の安定化に資する社会インフラとして導入が進められている。中でも系統用蓄電池は、昨年12月時点で、接続検討と契約申し込みの合計が2億キロワットを超えるなど活況を呈す。その背景には、一定の収益確保や比較的短期間での投資回収が期待できる事業と見なされていることがあろう。
だが、期待が先行する局面ほど、運用計画が置き去りにされる危うさもある。一部では、蓄電所があたかも建売住宅のように安易に捉えられているのではないかという懸念も拭えない。系統に接続して充放電を行う蓄電池事業は、発電した電気の全量買取を前提とするFIT制度下の発電事業とは異なり、適切に運用され、市場で相応の収益を確保できなければ、事業として成り立たない。
想定する事業期間を通じて大きなトラブルなく運用され、適切な維持管理が行われるのであれば問題はない。懸念されるのは、適切な事業計画のないまま運用され、十分な保守も行われず、運転データの蓄積も不十分なまま、想定どおりに収益化できないことを理由に転売されたり、廃棄されずに放置されたりする設備が現れることである。
◇データ蓄積が必要
将来、このような設備が収益性の悪化を理由に転売市場に流通した場合、運転データが十分に蓄積されていなければ、電池セルの劣化状況を分析したり、安全な運用を継続できるかどうかを判断したりすることが難しくなる。その結果、設備の適正な価値を設定しにくくなり、放置につながるおそれがある。
さらに、蓄電池設備が適切に廃棄されないままで放置されると、外見上は局舎に収納され安定しているように見えても、電池セルは温度上昇や経年などによる劣化が進み、不具合に至るリスクが高まり続ける。不可逆的な劣化が進んだ設備や適正な運用に必要な情報が蓄積されていない設備では、仮に新たなアセットホルダーの所有となって再稼働に至ったとしても、内在リスクの把握が困難である。
火災などの最悪の事態に至る可能性も否定できない。特に小規模蓄電池設備は、市街地や住宅近傍に設置されることも想定されるため、事故が発生した場合の影響は大きい。
蓄電池設備は、設置するだけで価値を生むものではない。適切な運用計画に基づき、データを蓄積し、状態を把握し、必要な維持管理を続けてはじめて、社会インフラとしての役割を果たすアセットとなる。蓄電池事業が健全に広がるためには、設備の導入段階から運用、更新、撤去までを見通した計画が欠かせない。「蓄電池事業に関するガイドライン」が、事業関係者相互のコミュニケーションを促し、長期的かつ安定的な事業継続に不可欠な運用計画の策定に役立つことを切に願う。(この項おわり)
電気新聞2026年8月10日






