[エネ教育はいま]東京都市大学 サイエンスカフェ

多くの来場者でにぎわった「サイエンスカフェ」

◆学園祭で「原子力」テーマにエネルギー語る場を提供/想定の2倍超、615人が来場

商用炉の再稼働などを経て一歩ずつ再建へ歩む日本の原子力。しかし、一般の理解醸成は大きな課題として残されている。東京都市大学原子力システム研究室修士2年の三浦涼介さんと、北薗孝太さんはそんな問題意識から、学園祭で原子力をテーマとする「サイエンスカフェ」を企画。日本原子力産業協会などの協力も得て「気軽にエネルギーについて語れる場」をつくった。初日は「お客さんが来てくれるか心配」と話していたが、果たしてその結果は……。

11月のある日、東京都市大学世田谷キャンパス(東京都世田谷区)は普段とは違う装いに包まれた。旧称の武蔵工業大学時代から数えて85回目の「世田谷祭」の日を迎えていたためだ。キャンパス内には進学を考える高校生や、周辺の住宅地から来たとおぼしき家族連れなどでにぎわった。

学科や研究室はそれぞれ、工夫を凝らした展示で来場者の関心を引き付けるが、理系のキャンパスであるだけに、一般にも分かりやすい「見せ方」には、それぞれ毎年苦心しているという。

原子力システム研究室もそんな研究室のひとつ。毎年、学科ブースの一部として研究概要の紹介など「お堅い」内容の展示を行っていたが、三浦さんと北薗さんは昨今の原子力を取り巻く社会環境を踏まえ、「例年とは違う展示を」と、研究室独自のカフェを企画。コーヒーと茶菓子を提供しながら、エネルギーについて一緒に考えようというものだ。

とはいえ、原子力コミュニケーションについては研究室のノウハウだけでは対応しきれない。そこで声を掛けたのが、年次大会などでつながりのあった日本原子力産業協会、そして原子力発電環境整備機構(NUMO)、日本原子力研究開発機構(JAEA)の3団体だった。

原産協会が協力した絵本の読み聞かせ

原子力を学ぶ学生の減少など人材育成問題の対策に取り組む原産は、趣旨に賛同。職員を派遣し、放射線の働きを分かりやすく説明する霧箱や、放射線加工により強化した樹脂による実験を展開。また原産主催の大学生向けのスタディーツアーに参加した他大学の学生もボランティアとして駆け付け、東北エネルギー懇談会が作成した、エネルギーを考える紙芝居「ミック」の読み聞かせを実施。特に小学生児童の人気を集めていた。

全国でシンポジウムを開催するなど一般への理解活動を加速しているNUMOは、ガラス固化体のモックアップなどを展示し、地層処分の概要を紹介。来場者にそれぞれの使用済み燃料処分へ向けたアイデアを付せんに書いてもらうなど、双方向型のコミュニケーションを展開した。

AEAは高速増殖炉と、高温ガス炉への取り組みを解説。こちらはどちらかというとシニア層の関心が高い様子で、「ニュースでよく名前を聞くが実際のところはどうなのか」といった疑問に、職員が答えていた。

北園 孝太さん

2日間の来場者は想定の300人を大きく上回る615人。三浦さんは「『原子力』を前面に出して大丈夫かという心配もあったが、想像以上に来てくれた」と振り返る。「アンケートで『原子力に反対』と答える人もいたが、話を聞いてくれる姿勢は感じた」という。

北薗さんは過去の学祭で中高生の進路相談を担当したが、そのときより「尋ねてくる学生の目的意識を強く感じた」と話す。「もともと原子力に関心はなかったという学生もいたが、原子力は化学から情報処理まで幅広い知見を必要としており、多分野とつながっていると伝えることもできた」と、手ごたえを語る。

三浦 涼介さん

三浦さんも北薗さんも来年度からメーカーの原子力部門への就職が決まっており、「次回以降の出展は、後輩の自主性に任せたい」と話す。そのためカフェが来年の世田谷祭でも見られるかは分からない。

しかし新しい原子力コミュニケーションと、キャリアパス提示の手法を示したという点で、成果は小さくないといえそうだ。