被災地での建柱作業。被害設備は広範囲にわたり、復旧作業は長期戦になった(女川町、11年3月30日)
被災地での建柱作業。被害設備は広範囲にわたり、復旧作業は長期戦になった(女川町、11年3月30日)

 

◆極限で痛感、休息の大切さ。「精神力」依存しない仕組みへ

 
 エンドレスの作業と思われた中で、気仙沼営業所配電課配電技術長の鎌田俊(現在は古川営業所配電技術サービス配電技術長)は、上司の決断に救われたことがある。当時の営業所長、配電課長が「日没以降の作業は行わない」ことを決め、行政にも掛け合い、防災無線を通じて周知したことだ。

 夜間、潮の満ち引きの関係で沿岸部の道路が冠水する恐れがあった。営業所長と配電課長の判断は、2次災害を防ぐことを目的としたものだった。

 「これで夕方まで頑張れば休める。いつ終わるのか、いつ飯が食べられるのかが分からない状況ではなくなった。現場のモチベーションにも好影響を与えた」

 市役所前にある営業所は、3階がキッチンスペースになっていた。そこに社員寮のスタッフやアルバイトの女性が駆け付けた。事務系社員は他県まで買い出しに行き、食料を調達。3階ではみそ汁やカレーなどが調理され、社員や協力会社社員に提供された。温かいものを胃に入れるだけで気の持ちようは変わる。午後9時前には寝袋に収まり、就寝。体力を回復し、翌日の作業に臨む。そうしたリズムが出来上がっていった。
 
 ◇長丁場ゆえに
 
 長丁場の復旧作業で最も重要なのは「休息」だと感じる。「使命感や責任感だけで、不眠不休というのは、せいぜい2日間が限界。3日目以降はメンタル的に持たない」と鎌田。不眠不休が度を超えると、疲労の蓄積から些細(ささい)なことで感情的になったり、悲観的になったりする。「(日没までの)半日頑張り、休み、次の日にまた頑張る」というリズムができていなければ、体力・精神を削っていただろうと振り返る。

 部下や後輩に「自然災害への対応は、3日目以降が勝負」と教え込んでいる。体力的にも精神的にも最もつらくなる時期こそ、「あえて厳しい現場に手を挙げてでも行け」と。そのためにも、初動の段階では「勇気を持って休む」ことが大切だと強調する。

 塩釜営業所配電計画課の佐藤智子(現在は仙台営業所地中配電課建設グループ)も似たような思いを抱く。

 電気事業に携わる人間の責任感や使命感は、経験を積むにつれて養われていくと考えていた。しかし、東日本大震災後の復旧作業の中で、入社後間もない社員にも備わっていることを知った。「投げ出したくなるような状況かもしれない中、入社年次の浅い社員が当たり前のように泥だらけになって戻ってきていた」

 ◇平時こそ次へ

 こうした姿を心強く思う半面、問題意識も持つ。「個々人の“やる気”だけを原動力にするのは良くない。非日常の状況が長丁場に及ぶと、やる気だけでは済まなくなる。災害から離れた時期に、私たち先輩が管理する仕組みを作っておかなければならないと思う」

 東北地方と新潟県は、毎年のように自然災害に見舞われる。地震・津波に限らず、豪雪、台風など、災害の態様は多岐に及ぶ。佐藤は「あのとき頑張れたから、今回も頑張れるというサイクルになってしまうのは良くない」と話す。(敬称略)

電気新聞2018年3月8日

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